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家庭教師の仕事がまあまあ入る。週1と聞いていたはずなのだが。時給がいいのでやる。お金があるという安心は本当に何にも代えがたいものがある。だからセレブとか芸能人は嫌いだ。彼らからすべての財産を奪ってやって、具合を観察していたいと思う。無論顔もぐちゃぐちゃにしてだ。彼らの人がいいみたいなエピソードを聞かされると胸糞悪くなる。自分はろくでもない。

 

ずっと服を買いに行きたいと思っている。予算5万円くらい。シャツが欲しい。しかし行動する意欲と体力をこのご時世に吸い取られてしまった。疲れ果てた自分を簡単に想像できてしまうので尚更だ。

 

前に付き合った彼女とは、買い物をすることが多かった。見た目がいい女だったので、いろんな服を着せた。本当に愛らしかった。自分が彼女の魅力を最大限に引き出していると自負した。いろんなものに触れさせてやりたいと思っていた。自分が彼女の世界を変えるのだと意気込んでいた。珍しく自分が好かれる側だった。

 

傲慢だと思うだろう。別に何という反論はない。いまだって彼女に説教してやりたいことばかりだ。馬鹿が、と思っているところはあると思う。

 

今の自分を見てみれば、彼女に教えられたことが生活の多くを占めている。一人で向かう先はむかし彼女と向かったところだ。彼女としていたことを一人でする。一人の不便さを嘆く。人をホストするときには、彼女をホストしたように接する。ちょうどいい雰囲気と価格帯のレストランは、むかし彼女と行ったところだ。ためらいなく奢ることができるのは、自分と一緒にいてくれる人のありがたみを知っているからだ。

 

服を買いに行く先は、彼女と行ったところしか思いつかない。試着は一人だし、財布を出す背中を押すのは自分だ。交際費がかからない分、紐が少しゆるくなった。買い物が終わったら、彼女の不吉を感じたベンチで、一人座って休む。食費がもったいないので、帰って自炊しようとか考える。

 

感傷的になっている。こういうのがモテないところだ。若い男の感傷ほど無意味なものはない。これまで付き合ってきた異性に今の自分を形作られた気がする。ワックスをつけるようになったし、悪くなった顔色を隠すために軽く化粧下地を塗る。髪の毛も染めた。今度パーマをかけようかと思っている。

 

すきな女の話を前に書いたし、今度は以前付き合っていた人のことを書いている。そういうところから足を洗えていない。人のことを信じられないと思っているくせに、ちょっと機会をうかがっているような、そういういやらしさがある。ろくでもないなと思う。

 

さいきん抗うつ音楽が嫌になってきた。というかもう聴いていない。嫌な精神状態と紐づいてしまった。いろんなものがいろんな嫌なことと紐づくから、生活の幅がどんどん狭くなっていく。顔色が最悪だったときに化粧下地を塗り始めたので、それを顔につけると具合が悪くなった気になる。

 

モデルさんになりたいな、と思う。いい顔で、いいスタイルで、いい服を着て、モテて、しあわせになりたい。都合のいい見方しかしていないし、ないものねだりしかしていない。昔の自分を美化しているとも思う。失ったものばかりだと感じる。どうしたらいいのかな、わからないね、と苦笑いする。